AIが発達すれば英語学習は必要なくなる?いま英語を勉強しても意味がないのか?
近年、人工知能(AI)の発達はめざましいものがあります。それに伴い、AIを活用した翻訳が進化の一途を遂げているのはご存じの方も多いのではないでしょうか。
一方で、AIの発達により人間がやらなくていい仕事も増えてくるという説が広まってきています。機械が人間から仕事を奪う…なんてSFの世界の話かと思っていたら、そんな時代はすぐそこまで迫っているというのです。
英語の翻訳もそのひとつ。実際にAIによる翻訳は、完ぺきではないものの一昔前よりは確実に進化しています。「このままAIが進化すれば、我々は英語を勉強する必要がなくなるのでは?いまやっている英語の勉強は無駄になるのでは?」 などと期待のような恐れのような説も入り乱れていますね。
今回は、AIの台頭によって英語教育の必要性が薄れるというのは本当なのか、これからの時代に英語を勉強する意味について考えていきたいと思います。
目次
最近のAI翻訳はここまで進化した!
1950年代から研究されてきた機械翻訳ですが、一昔前の機械翻訳のクオリティは多かれ少なかれ経験したことがある人は多いと思います。日本語を英語に翻訳すると、思わず笑ってしまうような訳が出てきたことはないでしょうか?研究チームはコンピューターに文法を教え込んだり統計に頼ったりしましたが、なかなか翻訳のクオリティは向上しませんでした。
ブレイクスルーが起こったのが2013年。googleの研究チームがニューラルネットワークを使ったword2vecという新しい技術を開発、言語をより正確に扱えるように。2016年にはgoogle翻訳がディープラーニングを使ったニューラル機械翻訳サービスを発表、大幅アップデートされ、翻訳精度がさらに大きく上がりました。
現在では、昔のgoogle翻訳を知っている人にとっては比べ物にならないくらいの精度で翻訳ができるようになっています。そのクオリティたるや、確かにこれでは我々が英語を学ぶ意味は無くなるのではないかという人も現れるだろうというレベルです。
また同時にソースネクスト社の「Pocketalk(ポケトーク)」や、ログバー社の「ili(イリー)」などハンディタイプの高機能翻訳デバイスが出現。英語学習必要なくなる説に一役買っています。
このAI翻訳の実力はというと、TOEICならすでに960点レベル超え、東大生より機械翻訳の翻訳のほうがレベルが高いとまで言う人もいます。
それではやはり機械翻訳が今以上に進化すれば英語の勉強などする必要はなくなるのでしょうか。
AI翻訳が進化しても英語学習の必要性が無くならない理由
結論から言えば、いくらAI翻訳が進化しても英語学習の必要性は無くなりません。仮にそんな時代が来るとしても、思っているよりはるか遠い未来の話になるでしょう。それでは、その理由を説明していきたいと思います。
AI翻訳には限界がある
かなりの精度をほこるまで進化したAI翻訳ですが、機械翻訳である以上どうしても限界があります。AI翻訳の限界とは何か、考えてみましょう。
文化の違いや細かなニュアンスによる意味の違いなどには対応できない
文字ベース(リーディングやライティング)に関してはAI翻訳はすでにかなりの威力を発揮すると思われますが、文化の違いによる細かなニュアンスの違いにはなかなか対応できません。
例えば英語では相手に何かをお願いをするとき、前もって「THANK YOU(ありがとう)」と言っておく習慣があります。英語圏では普通でも、日本語でいきなり「多忙なのでバイトを週2に減らしてほしいです。ありがとうございました」などと言われてしまうと「何勝手に自己完結しているんだ」と怒りを買ってしまうでしょう。
また、よく言われることですが日本人というのは回りくどい言い回しをしたり、結論を言うのを後回しにすることがままあります。日本人特有の悪い面とされることもあり、一方で日本人同士であれば穏便に話を進めるための手段でもあったりするのですが…いくら翻訳が優秀で日本語の意味を正確に訳せても、このニュアンスの違いはどうすることもできません。スピーディーな会話を好むネイティブの人からは、変わらずイライラされることでしょう。
また、親しい間柄で交わされる「バカ野郎!(本当に怒りながら)」と「バカ野郎w(笑いと親しみを込めながら)」では全く意味が異なってくるのはお分かりになると思います。そこまでAI翻訳がフォローできるのかと言われれば、さすがに疑わしいですよね。
どうしてもタイムラグは生まれる
タイムラグに関してもほとんど無くなってきている印象があるAI翻訳ですが、完全には避けることができません。理由のひとつに、英語と日本語の語順の違いが挙げられます。語順の違いについて詳しくは下記リンクを参照してください。
例をあげて説明すると、「ビールをひとつもらえませんか?」という文章を英語に翻訳しようとしたとき、AIは最後の「もらえませんか」まですべて聞き取って初めて「Can I Get A Beer?」という英語に訳すことができます(「もらえませんか」を聞き取らないと最初の「Can I 」が導き出せない)。つまりAIは一文を全て聞き取ってからでないと翻訳ができないのです。この時点ですでにタイムラグが発生してしまいます。
翻訳機を通しての会話の限界
これは上のタイムラグの問題とも関連しますが、親しいコミュニケーションを取ろうとするとき、あるいは込み入ったビジネス上の話をするとき、いちいち翻訳機を取り出して会話するのはどう考えても面倒かつ上手くいかなそうですよね。あわてて翻訳機を取り出したり…相手は苦笑するかイライラするしかありません。
文学はAI翻訳には無理!
これはすべての人に関係があるわけではないかもしれませんが、文学などの微妙なニュアンス命の文章を訳すのはAIには難しいことが分かっています。人によっては「永久に無理」とまで言い切るほどです。いつかはその壁を乗り越える日が来るのかもしれませんが、現時点での予想ではかなり未来の話になるでしょう。
文学とまでいかなくても、人と人との親密な関わりにおいての微妙なニュアンスをAI翻訳に任せられるかというと、言わずもがなという気がしますね。
AI翻訳が広まるほど英語の必要性は逆に高まる
AI翻訳が広まるほど英語の重要性が高まるといったらどう思いますか?理由のひとつは、プログラムというのは英語でされるということです。AI翻訳もプログラムである以上、当然英語で開発されます。結果、今まで以上に英語が世界中の言語を仲介する役割を担うようになる=世界共通語としての位置が高まることになるわけです。
もう少し分かりやすく言うと、例えば世界中の言語を日本語に翻訳するとして、いちいちアラビア語→日本語やウルドゥー語→日本語というプログラムを組むのかという話です。世界には約3千~7千の言語があると言われており、おまけに今私たちは母国語である日本語を中心に考えていますが、実際にはウルドゥー語→フランス語といった場合や広東語→ベトナム語といったケースもあるわけで、それらすべてを網羅するのは現実的ではありません。
そのため、英語を全ての中心として考えます。つまり全ての言語と英語さえ翻訳されればいいのであって、ウルドゥー語→フランス語の場合であってもウルドゥー語→英語→フランス語のように間に英語を介して訳せば、ウルドゥー語とフランス語間の翻訳プログラムは必要ないのです。
もうひとつの理由は、上のほうでも述べたように微妙なニュアンスなどの翻訳はまだ完璧ではないということ。感情のあまり入らない文章であっても翻訳ミスというのはどうしても出てきます。そうなったときにそのミスをチェックして直すのはやはり人間の仕事。その人間自体が英語ができないと始まらないわけですね。
AI翻訳はすでに英語ができる人のための便利ツール
ここまでで、AI翻訳が英語学習の必要性を無くすものではないこと、逆に英語の重要性は高まっていることをお話ししました。それではAI翻訳というのは我々の生活においてどういった位置づけになるのでしょうか?
ひとつ言えるのは、AI翻訳は間違いなく便利ツールであるということ。そして英語がある程度できる人こそAI翻訳を使いこなせるということです。
先にお話ししたように未だ不完全であるAI翻訳をチェックして直すのにも英語力が必要ですが、逆に言うとほとんどの部分をAI翻訳に任せて人間は間違っている部分だけ直すという使い方をすれば、大きな時間と労力の削減になります。プロの翻訳者などが、まさしくこのメリットを享受できる人になるでしょう。
また一般的な日常会話(海外での買い物など)や簡単なビジネスシーンなどはAI翻訳だけで事足りるようになるかもしれませんが、感情の入った親密な会話や複雑なビジネスの話でもAI翻訳をうまくサポートに使うことができれば、今までできなかったさらなるコミュニケーションも可能になってくるでしょう。外国人とのコミュニケーションの壁を低くしてくれる可能性があるということです。
これからの英語学習はどうしたらよいのか
さて、AIのおかげで英語を勉強しなくてよいということにはならないと説明してきましたが、あなたはホッとしたでしょうか、それともガッカリしたでしょうか。いずれにせよ、私たちはますます英語が重要になる国際化社会に対応するべく英語を学んだほうがよいことに変わりはありません。
しかしAI翻訳を十分に活用するメリットもあることも説明しています。AIを有効的に使うためには、私たちはどのように英語を学んでいったらよいのでしょうか。
結論としては、ズバリ「基礎的な英語力と国語力」を身につけることが必要ということです。国語力はともかく基礎的な英語力に関して言えば、「今まで言われてきたことと変わらないじゃん!」と思う人もいるかもしれませんが、まさにその通りです。AIを使う使わないに関わらず、まずは基本的な英語力を身につける。それが大事なのは変わりません。
これからAI翻訳を活用する場合、専門的な単語の意味などはむしろAIが勝っている部分すらあるかもしれませんが、全体的な文の意味は間違っている可能性が大いにあります。その文が何を言いたいのかを正しく理解し、機械翻訳が作った翻訳文を正しい訳に直す。この「文の意味を理解する」ということは人間にしかできないことですから、我々はやはり英語の基本的な文法などを知っておく必要があるのです。
まずは基礎的な英語力を、というトピックに関しては下記リンクを参照してください。
まとめ
今回は、AIが発達すれば英語学習は必要なくなるのかという話題についてお話ししました。良くも悪くも、AI翻訳が英語学習が必要無くなるほど発達する未来というのは、そう簡単にはやってきそうにありません。むしろAI翻訳を使いこなし時代の波に乗るためにも、英語学習の必要性は高まる一方だと言えるでしょう。
また、AI翻訳が教えてくれるのはコミュニケーションの大切さです。AI翻訳で無機質な英語での買い物やビジネストークなどは可能になってくるでしょう。しかし人間同士顔を見て話す会話や、相手の腹を探り合うビジネスの取引などはやはり人間同士ならではのコミュニケーションです。
AIを積極的に活用しさらにグローバルなコミュニケーションをするためにも、またもしかしたら訪れるかもしれない英語ネイティブの大切な人に大事なことを伝える機会のためにも、私たちは英語をもっと学習するべきですし、いま勉強した英語が無駄になることは決してないのです。