英語の暗唱は最終トレーニング?重要性と必要性について考えてみた
英語学習を進めるうえで、様々なトレーニング方法を耳にしたことがあるのではないかと思います。当サイトでも、例えば発音ではオーバーラッピング・シャドーイング・リピーティングなど、多種多様の練習方法を紹介してきました。
また発音以外にも、リーディングやライティングのトレーニングも英語を話せるようになるためには必要だという話をしてきたのをご覧になってくださった方もいらっしゃるでしょう。
それでは、英語学習における最終トレーニングや最後の関門というものはあるのでしょうか?または究極のトレーニングのようなものは?
それを踏まえて今回ご紹介する英語学習法は「暗唱」です。「暗唱って、暗記して唱えるだけのあの暗唱のこと?そんなことが最終トレーニングになるの?」と思った人もいらっしゃるかもしれませんね。それくらい練習方法としては単純ですが、実はこれが英語が話せるようになるための重要なポイントになるのです。
それでは、暗唱の重要性と効果的なトレーニング方法について学んでいきましょう。
目次
暗唱は多くの人が勧める学習法
実は昔から、暗唱という学習法は多くの人から推奨されてきました。10か国語以上を操ったと言われるドイツの考古学者ハインリヒ・シュリーマンや、「同時通訳の神様」と呼ばれ同時通訳者・翻訳家・文化人類学者・政治家という多様な肩書を持つ國弘正雄などもこの方法を推奨していたそうです。(國弘正雄は中学の教科書を500回繰り返したと言われています。)
また最近ではその効果が科学的に裏付けられたりもしていますし、実際に英語の達人と呼ばれる人達の多くがこの学習方法を取り入れて英語力を伸ばしてきました。
また、中国人が日本人より英語力が高いのは暗唱をよくするからという説もあります。別の説では、それは中国人に限ったことではなく非英語圏の外国人が英語を学ぶ際に暗唱をすることは多いという話も。
そうはいっても「暗唱って昔からある古い学習法なんでしょ?今ならもっと効率的な方法があるのでは?」とか「シャドーイングの方が効果的なのでは?」とか「ただ暗記して唱えるだけで本当に効果があるの?」など、疑いを持つ人も多いことでしょう。
結論から言うと、暗唱は非常に効果的な学習方法です。そしてこれは昔も今も変わりません。ただし他のトレーニングと同様に、効果的なやり方と非効率的なやり方とがあります。なので「正しいやり方で行う暗唱は最強のトレーニングである」というのが最も適切かもしれません。
なぜ最強?暗唱が効果的な理由
それでは、暗唱がなぜ最も効果的なトレーニングと言われるのか理由を探っていきましょう。
暗唱はさまざまな英語学習の行き着くところ
そもそも日本に英語が入ってきたとき、学習方法は暗唱だけでした。そこで英語を身につけた先駆者たちが、英文法や新しい英語学習方法を作り上げてきたのです。
じゃあやっぱり新しい学習方法の方がいいのでは?と思うかもしれませんが、実際はそうではありません。逆に、全ての英語学習が行き着くところが暗唱なのです。
例えば子供が言葉を覚えるのも、結局は大人が話している言葉の暗唱です。日本人である我々も、日本語を覚えるときに自然にやってきたことです。
「大人になると子供が言葉を覚えるようにはいかないから、文法などの勉強が必要なのでは?」確かに、そのような説はよく目にすることと思います。そしてそれは間違ってはいません。日本にいる我々が、英語圏に暮らし毎日シャワーのように英語を浴びる環境にいないためネイティブの子供のように英語を身につけられるわけではないことも事実です。
ですが、単語や文法を学び、長文のリスニングやリーディングをし、TOEICで高得点を取り、シャドーイングで発音を練習し…それで英語がペラペラ話せるようになりましたか?と聞かれて苦笑いを浮かべる人のなんと多いことか!
それらの練習が無駄というわけではありません。それらの練習を経て最終的に行うトレーニングが暗唱なのです。
暗唱で我々の頭の中に何が起きる?
暗唱を行っている際に我々の頭の中では「手続き記憶」と呼ばれる現象が起きています。手続き記憶とは、歩く方法・自転車の乗り方・キーボードのブラインドタッチのやり方・楽器の演奏方法など、「一度覚えたらまず忘れない」ようなもののことを言います。
これは要するに「体で覚えている」「体に染み込ませている」ような感覚です。自転車が動く仕組みや各部位の名称、楽器の作りや音楽理論などを覚えるより何より、体が覚えてしまえば意識的に考えなくてもそれをやることができますよね。
英語などまさにそうです。基本的には人と会話するとき、いちいち文法のことを考えたり頭の中で日本語から英語に訳したりしている時間などありませんから、考えなくても反射的に英語が浮かんでくる状態になることが最終目標です。これが当サイトでも何度かご紹介している「英語脳をつくる」ということ。それを可能にしてくれるのがまさに暗唱なのです。
暗記で止まっていてはダメ!
学習していく中で、例文暗記やシャドーイングを行う際に「自然に口から出てくるくらいまで繰り返し練習しなさい」と言われることがあります。それって結局のところ、暗唱できるようにしなさいということなのです。
暗唱したけど英語が上達しない!という人は、暗唱ではなく暗記で止まっている可能性があります。詳しくは後述しますが、正しい暗唱とは文章の意味を完全に理解し、イメージと共に自動的に口から英語が出てくる状態にまでもっていくこと。
意味を理解せずただ覚えて口から出しているだけの状態は、ただの暗記です。もちろん暗記も重要なプロセスのひとつ。そこから暗唱といえるまでに持っていくには、もうワンステップが必要になるのです。
暗唱はなぜ最終トレーニングなのか?暗唱までの正しい道のりは?
「暗唱が最強なのはなんとなく分かったけど、なら最初から暗唱をやってはダメなの?」その答えは「ダメです」。正しく暗唱トレーニングを行うためには、そこへ至るまでのプロセスが必要になるからです。
ざっくりと暗唱へ至るまでの道のりを説明します。
①リスニング
↓
②ディクテーション
↓
③文法理解
↓
④オーバーラッピング⇒シャドーイング⇒リピーティング
↓
⑤完全記憶リピーティング
↓
⑥暗唱
それぞれの細かい説明はここでは省きますが、①~⑤までをきちんとやってからこその暗唱です。単語や文法を理解し、発音を理解し、完コピと言えるくらいまでコピーし、最後に暗唱する。ここまでやってはじめて、自然に英語が出てくる英語脳の状態まで鍛えることができます。
それぞれのトレーニング方法などについては下記リンク先の記事を参照してください。
暗唱をする具体的なメリットとは
今までにさまざまな英語学習を行ってきた人であれば、ここまでの説明で暗唱をするメリットが何となく理解できてしまったかもしれませんね。しかし念のため、ここで暗唱のメリットについてひとつづつ説明していきましょう。
リスニング力が上がる
暗唱は言うまでもなく、何度も何度も同じ音声を繰り返し聴くことが必要になります。それは教材としての音声だけでなく、自分の発声を録音したものを聴くことも含まれるでしょう。何せ暗唱の目標は、意味理解や発音を細部まで意識した「完コピ」ですから、とにかく何度も聴く必要があります。
これだけでもリスニングが鍛えられるのは十分分かると思いますが、さらに完コピするためには発音も練習する必要があるというのもポイントです。人間は発音できない音声は聞き取れないと言われており、これが日本人が英語が苦手な理由のひとつとされています。正しい発音が身につけば、それだけリスニング力も向上するのです。
またリンキング(単語と単語のつながり)や緩急などもリスニングには重要になってきます。これらも完コピを目指すことによって聞き取れるようになってくるはずです。
スピーキング力が上がる
これは説明しなくても分かるよ!と言われてしまいそうですが、当然スピーキング能力の向上にも大きな力を発揮します。目指すのは完コピですから、発音も当然正しいものにする必要があります。発声の仕方・口の開け方・舌の位置などを徹底的に矯正し、自然なリンキングや音の強弱・アクセントを習得しなければなりません。
このようなトレーニングを積むことで自分の発音の問題点に気づき、よりネイティブに近い発音へと近づき、自然な英語へと近づいていくのです。
暗唱というのは体のトレーニングと似ている部分があります。口と舌の筋肉を、自然と正しい英語が発音できるように鍛えるのです。自転車に乗るためには自転車を動かすための筋肉を使う必要がありますが、その筋肉の動きを体に覚えこませるといった感じですね。
また多くの文を暗唱できるようにすると、実は応用も効きます。「似たようなテーマやシチュエーションの文があったな…」とか「あんな単語・イディオム・言い回しがあったな…」など、実際の英会話の中で使いまわすことも容易になるのです。もちろんそこに至るまでには時間が必要ですが、暗唱というのはそういうものだと思って続けることが重要です。
リーディング・ライティング力も上がる
リーディングやライティングは暗唱とそこまで関係なさそうと思うかもしれませんが、そんなことはありません。英吾の4技能すべてに効果が期待できるからこその「最終トレーニング・暗唱」なのです。
暗唱をすると英語の正しいリズムが身につきます。ここで鍛えられたリズムは、リーディングを速くするのにも役立つのです。しかもただ速く読むだけではなく、きちんと意味を理解した速読が可能になります。
暗唱を長く続ければ続けるほど語彙力・表現力が上がるのもポイントです。そのまま使いまわせるパターンや、単語を入れ替えるだけで使えるパターンなどのストックが増えればライティング力の向上にも役立ちます。
暗唱を行う際の注意点
最後に、簡単ではありますが暗唱を行う際の注意点について説明します。
自分のレベルに合ったテキスト(教材)を使う
暗唱は文の意味や発生するリズムなどもすべて理解した「完コピ」を目指さなければなりません。そのため自分のレベルに合った文章でないと十分な効果は期待できません。
例えば、文系の学生がいきなり量子力学の論文を暗唱しようとしていたら無謀だと思うでしょう。それと同じことで、自分にとって難しすぎる文章だと理解するのに時間がかかりすぎて効率が悪いですし、また簡単すぎても十分な成果が見込めません。
気持ちを込めて読む
日本人が苦手だったり、恥ずかしいなどと言って嫌がりそうなのがこの「気持ちを込めて読む」です。しかしこれはかなり重要です。英文を完コピするにあたり、英語ならではのリズムやイントネーションも体得する必要があります。
これは気持ちを込めて読むことをしないと、正しいものが身につきません。目指すのはよりネイティブに近い自然な英語ですから、ここをおろそかにしてしまうくらいなら暗唱などやらなくてもいいと極論を言ってしまいたくなるほどです。
我々が身につけたいのは「英語」というより「英会話」ですから、実際に使える生きた英語をマスターするためには「気持ちを込めて読む」練習は非常に大事だと覚えておきましょう。
まとめ
今回は最強トレーニング「暗唱」について解説してきました。
文中でも説明したように、暗唱はもっとも古い練習方法でもあると同時に不変の効果を持ったトレーニング方法であると言えます。
ただこれも説明したように、一連の英語学習においての最終段階と捉えても構いません。暗唱をより効果的に行うためにも、前提となる知識をインプットし、そこに至るまでの前段階の勉強やトレーニングを怠らないように心がけましょう。