プロの通訳も使う英語トレーニング「リプロダクション」。シャドーイングより効果があるって本当?
英語の4技能「読む」「聞く」「話す」「書く」はそれぞれ密接に関わっており、英語力を向上させるためにはどれかひとつだけを伸ばすのではなく満遍なく学習しなければなりません。
しかしそれぞれに特化した効果的な学習方法はもちろん存在します。今回はその中でも「聞く(リスニング)」と「話す(スピーキング)」を特に鍛えられる学習法「リプロダクション」を紹介します。
リスニングとスピーキングを鍛えるトレーニングといえば近年ではシャドーイングが有名になってきており、当サイトでも紹介しています。
今回ご紹介する「リプロダクション」は、現役の翻訳者が使うトレーニングでもあり、シャドーイングよりもさらに効果も難易度も高い練習法となっています。
「そんな高等なトレーニングを知っても仕方ない」…?いいえ、知っておけば役に立つ部分、学ぶべき部分はたくさんあります。今すぐこのトレーニングを始めろというわけではありませんが、トレーニングの概念やいつごろから始めればいいかを知っておくことは今後の英語学習に良い影響をもたらすでしょう。
目次
リプロダクションとはどういう練習法か
リプロダクション(reproduction)という単語は「再生・再現」という意味ですが、まさにこの練習法は「聞いた英語を再生・再現する」トレーニング。一度聞いた英語の音声を繰り返すのです。
「それってシャドーイングと何が違うの?」というのはよく聞く質問ですが、シャドーイングが聞いた音声から少し遅れて付いていくように発音するのに対し、リプロダクションは音声を全部聞き終えてから聞いたことを丸ごと繰り返して言うのが特徴。
パッと聞くと簡単そうに思える人もいるかもしれませんが、単に1文を聞いて繰り返すのではありません。例えば
One of the reasons why people should read a newspaper every day is that this helps them to understand what is going on in the world.
上の英文を、例文(スクリプト)を見ずに、全部聞き終えてからそっくりそのまま繰り返す…これを「簡単じゃん」と思う人は、恐らくすでにある程度英語が話せる人でしょう。そうでない人は、一気に難しく感じてきたのではないでしょうか?
だんだん分かってきましたね。そう、リプロダクションとは
①聞こえてくる英語の意味を理解する
②理解した英語の内容を記憶(保持)する
③保持した内容を自分の言葉でアウトプットする
という手順を踏む方法なのです。これってまさに通訳者が仕事でやっていることでは?と思った人、正解です。
先ほどの英文を見て「英語だとかいう前に、この長さの分を一言一句正確に覚えるなんて、む、無理…」と怯んでしまった人もいるかもしれません。確かに、同じ意味の文を日本語で言われても一言一句覚えて再生できるかと言われると難しいものです。試しに適当な文でやってみましょう。案外難しいのが分かります。
(ちなみにプロの通訳者は10秒位ある音声を聞いてもそれを正確に繰り返すことができるそうなので、さすがプロという感じですね…)
ここまでくると、「これってリピーティングと何が違うの?」という疑問が湧いてくる人もいるかもしれませんね。リピーティングも確かに聞いた音声を繰り返す練習法です。詳しくは下記記事を参照してください。
リプロダクションがリピーティングと大きく違うポイントとしては、「できるだけ忠実に再現しようと試みはするけれども、厳密に一言一句すべて暗記するというよりは、英文の意味を理解して自分なりの言葉で話す(場合によっては要約する)方が大事だよね」という考え方です。
逆に一言一句覚えようとすると、英語学習というよりも記憶力を鍛えるのに重点が置かれがちです。もちろん記憶力を鍛えるのにも役立つのがリプロダクションのメリットのひとつですが、そこに重点を置くのは違うということです。
そのため、このトレーニングは「repeating(繰り返し)」ではなく「reproduction(再現)」という名前なんですね。
ひとつ例を挙げてみましょう。
We don’t have to commute everyday, but see by video conferencing every morning.
(私たちは毎日通勤する必要はありませんが、テレビ会議で毎朝会っています)
通勤したりテレビ会議をしているイメージをしながら文章の全体像をつかみます。そしてリプロダクションする例が下記です。
We have a teleconference every day, because we don’t have to commute.
(通勤する必要がないので、私たちは毎朝リモートでの会議をしています)
厳密に言うと若干ニュアンスは違いますが、文の大意としてはほぼ合っていますね。
さてここまでくると、まさに同時通訳の練習という感じがしませんか?相手に伝えるまでにまず自分が聞いたことの意味を理解し、自分の中で整理しかみ砕き、第3者が理解できるように話す。
単語や文法がちっとも理解できないようでは話になりませんし、理解できても意味を整理するのに時間がかかってしまうと記憶がどんどん抜け落ちていってしまいます。
そういう意味では、基礎的な英語力がついていない人にとっては、はっきり言ってやるだけ無駄・むしろやることができない練習法であることは確かです。
ただ、ある程度の英語力がついてきてさらに飛躍的に向上したいという人にとっては強力な練習法となることも間違いありあません。
リプロダクションで得られるメリットとは
リプロダクションのハードルの高さばかり強調してしまったかもしれませんが、リプロダクションには単にリスニングとスピーキングが上達する、というだけではないメリットが多くあります。順に説明していきましょう。
正確なリスニング力が身につく
一言でリスニングといっても、「何となく相手の言っていることが分かる」状態から「完全に相手の言っていることが一言一句分かる」状態までいろいろなレベルがあります。何となくでもコミュニケーションが取れればそれでいい場合ももちろん多いのですが、リプロダクションのトレーニングをすることによって同じ意味でも「どんな語句を使って表現しているか」が聞き取れるようになり、より正確なリスニング力が身に付きます。
リスニング時の集中力が身につく
上の項とも繋がりますが、正確なリスニングをしようとすると英語音声を集中して聞き取ろうとします。これにより、普段のリスニング時でも相手の言っていることを正確に聞き取ろうとする集中力が身につくのは言うまでもないでしょう。
英文を語順のまま理解する力がつく
当サイトでも何度か説明している通り、英語をうまく話せるようになるには「英文を語順のまま理解する力」が必要です。
これは英語を英語のまま理解する「英語脳」を作るということです。
英語の語順については下記記事も参考にしてください。
上記記事を読んでいただければ英語を語順のまま理解するということが非常に重要だということがお分かりになるかと思いますが、リプロダクションはまさにその技能を伸ばすのに向いているトレーニングです。英文を聞いただけで頭から順番に理解できるようになるので、リーディング力も伸びます。
英語を語順のまま理解できないと、聞こえてきた英語音声を記憶する→頭の中で日本語に翻訳する→意味を把握する→再度英語に直す…といったとんでもない労力が必要となります。このトレーニングでは必然的にその能力を鍛えることになります。
文を組み立てる力が身につく
先ほども少しお話しした通り、一言一句完璧に記憶して再現するというよりは意味をちゃんと把握して相手に伝えられるかという方が重要です。一度聞いた英文の意味を即座に理解し記憶した後、自分なりの言葉でアウトプットすることによって文を組み立てる力が身につきます。これもスピーキングだけでなく、ライティングのスキルをアップさせることに繋がります。
言いたいことを英語で話す力が身につく
何だかんだ言って、TOEIC満点の人でも英語を話せない場合があるというのが日本人の現実。要は英語を理解できてもアウトプットすることに慣れていないのです。リプロダクションでは英語を理解するだけでなく自分の言葉で発信するので、単純に「言いたいことを英語で話す」という最もベーシックな部分を伸ばすことができます。
記憶力が上がる
記憶力を鍛えるのに重点を置くものではない、という話は上の方でしましたが、それでも自動的に記憶力を鍛えることになります。これも前述したとおり日本語でもある程度の長さになると覚えるのは大変ですから、いい脳トレになることは間違いありません。
4技能が鍛えられる
上で挙げてきたいくつかのメリットを見て分かる通り、まさに冒頭で話したように英語の4技能「読む」「聞く」「話す」「書く」を同時に鍛えることができるのがリプロダクションです。中でもスピーキング力の向上に大いに役立つのは言うまでもありません。
リプロダクションを実践するのは意外に簡単?
リプロダクションは難易度の高い練習法だという話はすでにしました。実際、単語や英文の意味を理解するのに手間取っているレベルであれば、正直おすすめできる方法ではありません。
ですがその一方で、ある程度のレベルの人であれば気軽に取り入れられるトレーニング法でもあるのです。
家で1人でできる
ネイティブの人と直接話す教室やオンライン英会話などはもちろん素晴らしいものですが、リプロダクションのように時間や場所を選ばず1人でできるというのもひとつの強みです。思いついたときに5分でもいいからやれる、この手軽さの割に効果が高いことを考えるとコスパがいいとも言えるでしょう。
教材を選ばないでできる
もちろん厳密に言えば専用に開発された教材を使った方がいいのかもしれませんが、実際は英文であればどんな英文でもリプロダクションのトレーニングに使えます。内容は、自分の好きなテーマやトピック・分野で構いません。むしろ興味のないつまらない長文を使うよりも効果が高まるので、積極的に好きなテーマの教材やコンテンツを用意しましょう。
どこで探すかという話になれば、今はネットの時代ですから優秀なコンテンツがたくさん落ちています。英語学習者向けのサイトでもいいですし、YouTubeにもたくさんいい教材があります。自分が興味を持てる、好きそうな話題の英文を選ぶといいでしょう。
まとめ
リプロダクションはプロの翻訳者養成のトレーニングに使われるくらいですから、何度も文中で強調してきた通りシャドーイングなどより難易度の高い練習法です。そのぶん効果が高いのも特徴ですが、最初のうちは無理に手を出さずに基本的な学習を飛ばさないようにしましょう。
学習が進むにつれて、リピーティング→オーバーラッピング→シャドーイングなどの域まで来たら次は何?となったらリプロダクションの出番。もちろん少しくらいなら、もうちょっと早い段階で取り組んでみてもいいですが、あせって重要な部分を飛ばすよりは地道な努力を重ねるのも重要です。
ただゆくゆくは、こういった練習方法を使って自分の英語力をさらにアップさせる必要があるのだ…と頭に入れておくと向上心にも繋がりますし、それより前のトレーニングに対する考え方や効率にも影響を与えるのは間違いありません。
プロの翻訳者まで目指す気はないし…という人でも、より良いコミュニケーションをネイティブとしようとするなら覚えておいて損はないトレーニング法ですよ。