英語の最強トレーニング「シャドーイング」とは?初心者にも効果はある?
「シャドーイング」をご存じでしょうか?シャドーイング(Shadowing)とは、簡単に言うと「英語の音声を、聞いた直後にそのまま復唱するトレーニング」のこと。「リピート」は英語を聞き終えてから繰り返しますが(いわゆる「repeat after me」というやつですね)、シャドーイングは聞こえてくる英文のすぐ後ろを影(shadow)のように追いかけるトレーニングです。
最近は第二言語習得研究などでその高い効果が認められ、一般の英語学習者にも広がってきたシャドーイング。リスニング・リーディング・スピーキング・ライティングの4技能の能力を鍛えられる最強の英語トレーニング法のひとつとまで言われていますが、本当に効果があるのでしょうか?また初心者にもできる練習方法なのでしょうか?
今回はシャドーイングがいったいどういうものなのか、どういう風に取り入れたらいいのかなどシャドーイングの基本について解説していきたいと思います。
目次
シャドーイングの成り立ちと基本概念
シャドーイングは1950年代後半に音声言語知覚や吃音症(言葉が円滑に話せない障がい、いわゆる「どもり」)の研究手法として誕生しました。学問的・医学的な手法だったわけです。
そこから第二言語(母国語以外の外国語)習得におけるリスニングやスピーキング能力の改善のためにも応用されるようになります。音声を聴いて意味を理解できるようにし、単語と文法の知識を無意識的・自動的に使えるように自動化する練習がシャドーイングだと思っていただければ結構です。脳の中に英語回路を作り「英語脳」にする練習ということです。
ここでひとつ注意したいのは、同時通訳者のリテンション能力の向上のために行われる数秒遅れの復唱もシャドーイングと呼ばれ、
「同時通訳のプロを目指す人たちの基本中の基本トレーニング」
「同時通訳者を目指す人の訓練方法だから効果があるのは当たり前ですよね!」
などと紹介されることもありますが、同時通訳の訓練で使われるシャドーイングは第二言語習得に用いるものと効果が全く異なるということです。頭の片隅に入れておいてください。
シャドーイングにはどんな効果がある?
シャドーイングには絶大な効果があると言われていますが、具体的にどのような効果があるのでしょうか?ひとつひとつ詳しく解説していきます。
リスニングスキルの強化
シャドーイングは、聞こえてくる英語と全く同じ発音・スピードで発音を繰り返します。当然、集中して聞きすべての単語とその発音を正確にとらえる必要があるため、耳から入った音声を単語として認識する能力(音声知覚)が徹底的に鍛えられます。
シャドーイングで鍛えると音声知覚が考えなくても無意識で行なわれ、自動化されます。これができていないと、脳がまず入ってきた音声を認識するためにリソースを使い、それが済んでから意味や内容を理解するという段階に入るため、非常に時間がかかるわけです。日本人でリスニングが苦手な人はこれが原因で、「今、何て言ったの?」と考えて混乱しているうちにどんどん次の英語が入ってくるためパニックになってしまうのです。
音声知覚を鍛えれば聞いた英語を理解するスピードが上がるため、結果的にリスニング力の向上につながるというのがお分かりいただけたでしょうか。
スピーキングスキルの強化
シャドーイングは前述したように、何度も発音を繰り返します。単純に考えてそれだけでもスピーキング能力は強化されそうですが、特に効果があるのが正しい発音能力です。日本人が最も苦手とする英語の発音および英語独特のイントネーションやリズム・区切り方・アクセントの位置・息継ぎの場所などを身につけることができます。
また英語を話せるようになるうえで重要なポイントのひとつが、英語のスピードに慣れるということ。ネイティブが話すスピードに付いていけるようになることで、スピーキング力は飛躍的に向上します。
さらに、人間には自分が発音できない音は音として認識できず聞き取れないという特徴があります。シャドーイングで発音をそっくりそのまま真似ることで正しい発音が身に付き、結果的にスピーキングだけでなくリスニング能力の強化にも繋がるのです。
英語の発音の重要性については下記記事も参考にしてください。
語彙力(ボキャブラリー)の強化
シャドーイングは、単語や文法などの知識の定着、すなわち語彙力の強化にも有効です。単語や文法を勉強する方法はもちろんいろいろありますが、シャドーイングで練習を繰り返し重ねると、意識して覚えようとしていなくともいつの間にか自然に単語や構文などが身についてしまいます。
また定型文やよく使われる言い回しなどを覚えられるのもメリットです。もちろん単語を覚えたり文法を勉強するのも重要ですが、よく使用される表現や言い回しを覚えてしまえば英文を1から構築するという作業が不要になります。なおかつそういった言い回しなどはネイティブスピーカーにとっても自然な表現であることが多いため、より実践的な力として使うことが可能になります。
リーディングスキルの強化
リスニング力が向上するのは聞いただけでもピンとくるけど、リーディング力も強化できるの?と思う人もいるかもしれません。実は絵リーディングとリスニングは脳の同じ回路で処理されるという説があります。どちらもインプットという意味では共通していますよね。なのでシャドーイングの練習をするとリーディング能力もアップするというわけです。
またより具体的な効果として、英語は意味のかたまり(「チャンク」といいます)ごとに自然と息継ぎをしますが、シャドーイングでその息継ぎのポイントまで習得すれば文章をリーディングしたときにチャンクの場所が見つけやすくなるというメリットもあります。チャンクを見つけるスピードが上がればリーディングのスピードを上げることができるわけですね。
リーディング能力が上がるということは、TOEICのような読解スピードが試される試験にも有効ということ。実際にTOEICで高得点を取っている人の中には、シャドーイングの練習をしている人も多いという話もあります。
シャドーイングは初心者にも有効なのか?
シャドーイングの効果は分かったけれど、初心者の自分がやっても有効なの?そもそもやれるの?という疑問を持つ方もいらっしゃると思います。結論から言えば、シャドーイングは間違ったやり方でやるなら初心者にはおすすめできません。ということは、正しいやり方であれば初心者にも有効ということもできます。詳しく解説していきましょう。
最低限の英語力は必要
そもそもシャドーイングは、「聞く」と「発音する」を同時に行う比較的難易度の高い学習法です。シャドーイングの効果で「語彙力が強化される」という説明をしましたが、単語や文法などを頭に定着させるのに効果的とはいえ、その単語や文法の意味を知らなければ話になりません。難しすぎる英文・教材ではまともに練習することすら困難です。
つまり最低限の英語力は必要だということ。もしくはシャドーイングする前に単語の意味や文法をあらかじめ調べておくことですが、これでは時間がかかってしまいます。やはり超初心者であれば、先に最低限の英語力を身につける勉強をすることを検討してください。
単語や文法の意味を知らずにシャドーイングしてもあまり効果はありません。逆に単語や文の構造を理解したうえで行うと、飛躍的に効果が高まると覚えておきましょう。
最低限の英語となると、中学英語を勉強するのがおすすめです。中学英語の重要性に関しては下記の記事が参考になると思います。
自分の学習レベルに合った文章でないと効果がない
最低限の英語力がある前提で、自分のレベルに合った教材を選んで練習することが重要です。自分が、単語や文法が十分に理解できると思える簡単なスクリプトを選んで練習しましょう。話すスピードも遅めのものから始めるのが無難です。
シャドーイングの種類について
一言でシャドーイングといっても、実は2つの種類があります。それぞれについて解説していきましょう。
プロソディ・シャドーイングとは
プロソディ・シャドーイングとは、発音(音声)だけに意識を集中して行うシャドーイングです。この場合、文章の意味は意識しません。5大発音要素である母音と子音・単語のアクセントの位置・リエゾン・リズム・イントネーションに注意して行います。とにかく同じ発音になるように真似して繰り返し練習するのが重要です。
また、スピードを意識するのも大事です。音声を追いかけて発音するのがシャドーイングですが、遅れすぎてしまうとシャドーイングではなくただのリピーティングになってしまいます。正確な発音・ニュアンスで復唱できるようにするためには、テキストなども見ずにひたすら音に集中するのがこのトレーニングの肝です。
コンテンツ・シャドーイングとは
コンテンツ・シャドーイングはプロソディ・シャドーイングとは逆に、意味・内容を意識しながら行うトレーニングです。この場合は発音は意識せず、文の内容に集中します。聞こえてくる英語音声の意味を理解しイメージを頭で思い浮かべる練習をすることで、英語を一度日本語に変換するプロセスを省き、英語を英語のまま理解する英語脳を作ることができるのです。
プロソディ・シャドーイング→コンテンツ・シャドーイングの順で行う
シャドーイングは、プロソディ・シャドーイング→コンテンツ・シャドーイングの順で行うのが効果的です。プロソディ・シャドーイングによりスピーキング力と同時にリスニング力も向上させ音声知覚を自動化させれば、そのぶん脳内のリソースを内容理解の方に回せるようになります。そのためこの順番で行うのがシャドーイングの効果を十分に引き出すのに有効なのです。
ポイントは、同じ教材を使って上記の流れを行うことです。脳はマルチタスクが苦手なため、意味と発音を同時に意識しながら行うことができません。その意味でも、上記の流れは理にかなっているといえるでしょう。
まとめ
今回はシャドーイングというものの基本概念について解説してきましたが、だいたいどんなものかお分かりいただけたでしょうか?
実際にシャドーイングを実践するにあたっては、さまざま教材なども出版されています。その中でもおすすめの教材、または練習方法などについても別の機会にご紹介していきたいと思っていますが、差し当たりネットフリックスやYouTubeで映画やドラマを再生し、日本語字幕や英語字幕などを活用しながら練習するといった方法でもOK。シャドーイングの感覚を手軽に味わいたい人は試してみてください。
また自分の発音を録音するのは、とても良い方法です。スマートフォンで録音すれば手軽に自分の発音をチェックできます。
現代ではインターネットをはじめスマートフォンなど情報を検索したり動画を視聴したりする便利な環境が整っています。シャドーイングに関しても、ぜひ文明の利器を活用してトライしてみてはいかがでしょうか。